相続登記とは、被相続人(亡くなった方)から、不動産を相続する際に登記の名義人を被相続人から相続人に変更する手続きを言います。
相続登記を行う際には、まず、遺言書の有無の確認をする必要があります。
遺言書があれば、原則それに従い、また、遺言書がない場合には法定相続分に従って相続するか、もしくは、話し合い(遺産分割協議)をして、相続人のうちの誰がどの物件を相続するかなど相続の内容について確定する必要があります。
法定相続分とは、法定相続人が有する相続権の割合のことで、民法で具体的な割合が規定されています。
遺産分割手続においては、この法定相続分を目安に遺産の配分を決定することが多いといえます。
ただし、相続人全員が合意すれば、法定相続分と異なる遺産配分を行うことも可能です(遺産分割協議)。
まず、配偶者(妻または夫)は、常に相続人になります。
第1順位・・子 | 子がいないときは子の子孫(代襲相続) |
第2順位・・父母 |
父母がいないとき祖父母 特別養子の場合にはお問合せ下さい。 |
第3順位・・兄弟姉妹 |
兄弟姉妹がいないとき、その子 |
内縁関係 | 内縁関係にある配偶者は相続権はありません。 |
養子 |
養子も通常の子(実子)同様、法定相続人です。 特別養子の場合にはお問合せ下さい。 |
非嫡出子 |
婚姻関係にない男女から生まれた子を非嫡出子といいますが、非嫡出子は認知されていれば相続権はあります。 |
父母の一方だけが同じの兄弟姉妹 | 第3順位となる場合には、父母の一方だけが同じの(半血の)兄弟姉妹にも相続権はあります。 |
相続人が1人の場合は、法定相続分は100%(1分の1)となります。
相続人が配偶者と子の場合は、配偶者2分の1、残りの2分の1を相続人である子の人数で均等に割ります。
相続人が配偶者と直系尊属の場合は、配偶者3分の2、残りの3分の1を相続人である直系尊属の人数で均等に割ります。
相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合は、配偶者4分の3、残りの4分の1を相続人である兄弟姉妹の人数で均等に割ります。
◆相続されない財産
相続されない財産(一身専属権) | 生活保護受給権 身元保証・信用保証など根保証債務 |
◆相続される財産(一身専属権以外の財産)
プラス財産(積極財産) | 土地・建物等の不動産所有権 預貯金 株券・債券等の有価証券 車・宝石・骨董品 生命保険金(※受取人指定方法により異なる) 電話加入債権 売掛金・貸付金 借地権・借家権 賃借権・経営権 損害賠償請求権 慰謝料請求権・著作権 特許権・商標権 意匠権 |
マイナス財産(消極財産) |
借入金返済債務 |
◆相続財産とみなされない財産
相続財産とみなされない財産 | 墓地・墓石・仏壇・位牌等の祭祀財産 生命保険金 (※受取人指定方法により異なる) 香典 |
不動産を所有している方が亡くなった後、その不動産の名義変更をせずに放置していると様々な問題が起こることがあります。
名義変更していないと、相続人は不動産の所有者としてその不動産の売却ができません。
また、相続登記していないことをいいことに第三者が不動産を勝手に売却する可能性もあります。
相続登記をせずに亡くなった方の名義のままで、遺産分割もしていない間に更にその相続人までもが亡くなってしまった場合、その方(死亡した相続人)の配偶者や、子供、さらには顔を見たこともない人が相続人の地位を受け継 ぐケースがあります。
また、長きに渡り相続登記をしないでいると、さらなる相続が生じることになり、結果として遺産分割に参加しなければならない相続人が数十人にもなるケースも考えられます。
相続関係が複雑になってしまうと、遺産分割協議書への署名など手続きが大変になってしまうケースになる恐れがあります。
名義変更をしていなければ、実体上は所有者になっていたとしても、金融機関はその不動産を担保にして融資をしてくれることはありません。
遺産分割協議によって合意したにもかかわらず、そのままにしておくと、一度は納得して遺産分割に同意したけれど、後で不満が生じて同意を撤回する相続人が出てくるケースもございます。
被相続人が遺言を残さずに死亡した場合、相続の発生によって、被相続人の遺産は相続人全員の共有状態となります。
そのため、共有状態となった遺産を各相続人に具体的に配分していく手続が必要となります。
これを遺産分割といいます。
もちろん共有状態のまま遺産を放置することも選択肢の一つとして考えられますが、共有物の処分は共有者全員の合意で決定したり、共有物の管理は共有者の持分の過半数で決定したりと、その取扱いに煩雑な手続を伴うため、できるだけ単独所有形態で分割しておくほうが、後の紛争を回避することができます。
遺産分割は、相続人全員で行う必要があります。
一部の相続人を除外してなされた遺産分割協議は無効となる場合があるので注意が必要です。
民法上、遺産分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする、と規定されています。
父親に相続が発生した場合、母親には現金や預貯金を、事業を承継する長男には自社の株式を、母親と同居する二男には自宅の土地建物を、三男にはその他の有価証券を、というような分割が一つのモデルとなるでしょう。
なお、前記の例のように、現存する遺産を分割することを現物分割といいます。
その他には、遺産を売却して売却金を分配するという換価分割や、一人が遺産を多く取得する代わりに過不足分を他の相続人に対する現金の支払い等で精算するという代償分割という方法があります。
被相続人は遺言で、相続分の指定、遺産分割方法の指定、遺贈等を行って、遺産の分け方を自由に決定することができます(ただし遺留分の制約はあります)。
もっとも、遺言は被相続人が単独で作成できるため、遺言者がよかれと思って書いた遺産の分け方が、相続人にとっては逆に望ましくないという場合もあります。
相続人全員が遺言の内容を知った上で、遺産について別の分割方法を合意すれば、遺言と異なる遺産分割を行うことは可能とされています。
ただし、遺言で財産を第三者に遺贈することが規定されている場合には、その財産は第三者のものになりますし、遺言執行者の定めがある場合には、遺言を執行したら得られたであろう報酬相当額について損害賠償請求を受ける可能性はあります。
遺産分割協議が完了した後になってから遺言の存在が明らかになった場合は、別途考慮が必要です。
一部の相続人が遺言書を隠匿していたため、そのような事態に至った場合、まず当該相続人は相続資格の欠格となります。
よって、先に完了した遺産分割は本来相続資格を有しない者が遺産分割協議に参加したことになるため無効となり、その後、相続欠格者を除外して遺言の執行や再度の遺産分割協議を行うことになります。
相続人の全員が遺言書の存在や内容を知らなかったときには、遺産分割の結果が遺言による相続よりも有利になる相続人、不利になる相続人が生じます。
不利の程度が大きい場合には、遺産分割協議の錯誤無効が認められる場合があり、その後、遺言の執行や再度の遺産分割協議を行うこととなります。
遺産分割は、相続開始後いつでも行うことができます。
遺産分割に時期的な制限は設けられていませんし、一定期間の経過によって遺産分割を行う権利が消滅することもありません。
税法上、相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内とされており、その期間内に納税地の所轄税務署長に相続税の申告書を提出し併せて相続税の納付をしなければなりません。
実務上は、この相続税申告期限を目安に遺産分割がなされることが多いといえますが、これは税法上の期限であって、遺産分割そのものの期限ではありません。
なお、相続税申告期限内に遺産分割が完了しない場合には、相続税の計算は、遺産を各相続人が法定相続分で取得したものとして未分割財産の計算を行い、各相続人の納付すべき相続税額を計算します。
その後、遺産分割が確定した段階で、当初の申告期限に提出した申告書に記載した相続税額に増減が生じたときは、修正申告(増額の場合)または更正の請求(減額の場合)をすることにより納税額の精算を行います。
相続が発生した後は、遺産の調査を完了し、その全部を一度に分割するのが合理的といえます。
しかし遺産が多岐にわたる場合や相続人が多数いる場合など、全部の遺産について一度に分割しようとすれば、非常に長期の協議が予想されるため、一部の財産だけを先に分割したいという場合、相続税の納付のために必要な財産だけを先に分割したいというような場合があります。
また、遺産分割協議の際には判明しなかった遺産が後になって発見される場合もあり、先になされた遺産分割は結果的に一部分割になるということがあります。
相続発生後は、遺産は相続人の共有状態になりますから、相続人全員が合意するならば、分割を1回でするのか、複数回に分けてするのか、自由に決定できます。
また、遺産分割協議書も相続財産すべてを対象にしたものをつくるほうが望ましいのですが、相続登記のために不動産だけに関する遺産分割協議書を作ることは可能です。
前記のとおり、一部分割は基本的に自由ですが、残部の遺産を分割する場面が将来必ず来ますから、その残部分割との関係で不都合を生じる場合には、一部分割を慎むべきです。
例えば、遺産のうち現預金のみを先に一部分割して、後に不動産を残部分割するという場合、不動産の数やその評価の問題上、不動産について各相続人の相続分に従った分割が難しいというような場合は、不動産の分割によって生じる個々の相続人の過不足分を同時に現預金で調整すべき場面と考えられますので、一部分割はふさわしくないといえます。
一部の相続人が遺産分割協議において決められた代償金の支払いをしない場合に、遺産分割協議そのものを解除することができますか?
遺産分割協議は有効に成立したものの、事後的に、一部の相続人がその協議条項を履行しない場合があります。
例えば、ある相続人が特定の遺産を相続するかわりに、 他の相続人に対して金銭を支払うという分割方法(代償分割)を決定したものの、その相続人が金銭を支払わないという場合が考えられます。
契約の場合には、債務不履行解除という制度が存在し、不履行を受けた相手側が解除を行って、その契約を無かった状態に戻すということが認められています。
遺産分割においても、通常の契約における債務不履行と同様に、代償金の不払いを理由に遺産分割協議を解除できるかが問題になります。
最高裁は、遺産分割は、その性質上協議の成立とともに終了し、 その後は協議において債務を負担した相続人とその債権を取得した相続人間の債権債務関係が残るだけと判示しました。
すなわち、遺産分割による法律関係の早期安定を重要視して、たとえ分割条項の不履行があった場合でも、遺産分割のやり直しは認められません。
不履行を受けた相続人が、不履行を行った相続人に対して、民事訴訟でその履行なり損害賠償なりを求めることとなるのです。
以上の点から、遺産分割において、代償分割のように一部の相続人に債務負担させる条項を設ける場合には、後の不履行による遺産分割の解除が認められないことを念頭においた上で、同時履行条項を設けたり、相当の担保の提供を求めたりするべきでしょう。
最高裁平成2年9月27日判決
共同相続人の全員が既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、 改めて遺産分割協議をなしうることは、 法律上、 当然には妨げられるものではない、と判示し、 合意解除の有効性を認めています。
結局、遺産は相続人らが相続する財産ですから、相続人全員の合意があれば、一度決めた分割方法の見直しはできるのです。
ただし、合意解除に遡及効のような特別な効力は認められません。
なお、合意解除及び再分割をした場合に、 税務上、 分割後の贈与であると認定されて贈与税が課されるおそれがあるため、実際の再分割には慎重な配慮が必要です。
被相続人には、生前の財産処分の自由ほか遺言の自由があり、自己の財産について誰に、どの財産を与えるかを自分の意思で決定することができます。
しかし、一定の法定相続人については、一定割合において被相続人の財産を承継する権利が保障されています。これを遺留分といいます。
遺産分割協議をおこなう場合や、遺言書を残す場合には、遺留分に十分注意が必要です。
後から不服がある相続人が、遺留分があるんだから返せと言いだすかもしれないからです。
遺留分権利者は、兄弟姉妹以外の相続人と定められています。
すなわち、配偶者、子(あるいは子の代襲相続人)、直系尊属のみが遺留分権利者となります。
相続権を喪失した相続欠格者、相続人から廃除された者、相続放棄をした者には遺留分は認められません。
総体的遺留分は、 直系尊属のみが相続人である場合は相続財産の3分の1、 その他の場合は2分の1です。
個別的遺留分は、 総体的遺留分に各権利者の法定相続分を乗じて算定します。
相続人が配偶者と子2人である場合には、 総体的遺留分は相続財産の2分の1であり、 個別的遺留分は、 配偶者が相続財産の4分の1、 子がそれぞれ8分の1となります。
相続人が父母のみの場合 (直系尊属のみの場合) には、 総体的遺留分は相続財産の3分の1であり、 個別的遺留分は父母それぞれ6分の1となります。
遺留分の侵害があった場合、遺留分権利者は侵害者(被相続人から生前贈与や遺言による財産の承継を受けた者)に対して、一定割合での財産の返還を求めていくことができます。
この権利の行使を遺留分減殺請求といいます。